ガンマンの死
宍戸錠さんは一挙手一投足が絵になる本当にかっこいい映画スターだった。子供の頃、生まれ育った田舎では日活と東宝作品をかける小屋が同じで、自分は特撮作品やクレージーを、父親は日活……というか主に吉永小百合が目当てで通っていたのだが、むりやりその2社混在のプログラムで見ることができたのは今から思えば贅沢だったかもしれない(その小屋は小4の時に火事で全焼してしまった)。その後の色々な錠さんを見る前にとりあえず日活が初体験だったというのも、よかった。
映画的教養を言語で「語れる」人でもあった。一件強面っぽいのだが、TVで見る錠さんの話し言葉は丁寧で気遣いにあふれていた。高校の時に一週間ほど上京した際に「カリキュラマシーン」を日テレで見て「なんで田舎ではこんな面白い番組をネットしてくれていないのだ」と地団駄踏んだ(ゲバゲバは放送されていたのだが)。芸人ではないが優れたコメディアンでもあったと思う。『ハレンチ学園』や「スター・ウルフ」や『ブラックジャック/瞳の中の訪問者』などへの出演では「こっち側に偏見のない人だ」という想いを強くした。
吹替のお仕事も忘れてはならない。TVシリーズ『警部マクロード』のデニス・ウィーヴァーのお声がいちばん有名だが『戦略大作戦』のドナルド・サザーランドもよかった。ご本人も日活時代から意識していたというバート・ランカスターの吹替も何本か担当なさっている。
縁は異なもので、その後拙作原作のTVドラマ『クルクルくりん』では、くりんの父親を演じていただくことになった。今となってはありがたいが、当時はなんだか色々申し訳ない複雑な気持ちで観ていた。僕は拳銃を持つ宍戸錠が見たかったから。
その頃は尖っててドラマはマンガとは別物と思い、内容へのコミットも、出演者やスタッフと会うことも意識的にしなかったが、何年か前に矢作俊彦さんのパーティで初めてご挨拶がかなった。お話しできて嬉しかった。
90年代の初め頃、故 薩谷和夫美術監督のご紹介で、大林宣彦作品を題材にした尾道市のイラストの仕事をしたことがある。このとき僕が描いたのは当時大林組の常連だった3人のガンマン=宍戸錠、佐藤允、内藤陳(日活、東宝、ボードビリアンと出自は違うが)が登場する架空の映画だった。そういう依頼がなかなか来ないにもかかわらず錠さんと佐藤さんは常にその日のためのガンアクションの鍛錬を欠かさないでいる、と耳にしていたからだった。