横田順彌さん
この歳になれば、先達はおろか、そう年の離れていない知人友人の訃報もぼちぼち聞くはめになる。世の理といえばそれまでだが、それにしても今の時代で73歳はいかにもお若い。
横田順彌さんといえば、本来僕などがSF界の先輩方を差し置いて少ない交流から知ったかぶりを書いていいような人ではないのだが、それでもマンガを気に入ってくださったのかご著書で当方の名前を出していただいたり、また、星新一さん、そして小松左京さんが亡くなられたときに、僕はイベント用の追悼ビデオの撮影と編集を担当したのだが、その際にも色々貴重な資料をご提供いただいたりして、たいへんお世話になった。
あるとき「世界で僕だけしか持っていないオリジナルの私家本が欲しいから、とりさん、この表紙の取れた古書SFの扉を描いてもらえませんか」といわれ、肉筆手作りの表紙をつけた拙い製本でお渡ししたことがある。これを頼まれたのは3人だけだそうで、あとは勝川克志さんと唐沢なをきさんであった。僕が担当したのは押川春浪『續空中大飛行艇』で、これらの表紙は横田さんの本『明治ワンダー科学館』(97年/ジャストシステム)の巻末に収録されている。
また『横田順彌(ヨコジュン)のハチャハチャ青春記』(2001年/東京書籍)では表紙カバーと章扉のイラストを仰せつかった。法政大学落研から一の日会時代の実録的エッセイで、僕に依頼が来たのはつまり僕も落研出身でかつSFファングループにも入っていたからだろう。
北野勇作さんなどもそうだが落研出身のSF作家というのは実は何人かおられる。その東西の双璧といえる横田さん、そしてかんべむさしさんの高座を僕は80年代のSF大会で拝見したことがあるけれども、横田さんは大会だからといって身内のファン受けのくすぐりやSFネタなどを安易に入れたりはせず、非常に端正でまっすぐな語り口だったのが印象に残っている。ハチャハチャSFの作風とは反対の故人のお人柄がしのばれる芸風だった。
おりしも大河ドラマ『いだてん』には押川春浪率いる「天狗倶楽部」が登場している。この集まりの存在を知ったのも横田さんのご著書であった。